アオウミガメ(ウミガメ科)

別名:あさひがめ、正覚坊

<伊豆大島とアオウミガメの物語>
アオウミガメは、世界中の熱帯から温帯の海に広くすむウミガメで、日本では関東から西日本にかけてよく見られ、伊豆諸島では一年を通して観察される。
成体は背の甲の長さが80cm〜1.3mにもなり、甲羅は黒みを帯びた深緑色、腹は淡い黄色であり、和名の「アオ」は「緑色」を意味し、英名の“Green turtle”と同じ由来である。若いころは雑食性だが、成長すると海草や海藻を主に食べる草食性になる。下あごのギザギザが、植物を食べやすくする役割をしている。

<人との関わりの歴史>
古くからアオウミガメは人間の暮らしと深く関わってきた。
その肉は美味で、かつてはイギリス王室のスープにも使われたほど。大航海時代には船で生きたまま運ばれ、世界中で乱獲された。
日本でも縄文時代の貝塚から骨が出土しており、伊豆大島の下高洞遺跡(約8000年前)からも、甲長60cmほどの個体の骨が多く見つかっている。
小笠原諸島では明治初期に年間3000頭以上が捕獲されたが、乱獲により1900年以降は激減。現在は保護され、捕獲数は少ない。

<産卵と回遊のひみつ>
主な産卵地はオーストラリア、マレーシア、ハワイ、コスタリカなどの熱帯地方。
日本では小笠原諸島や屋久島以南で産卵するが、近年は温暖化の影響で、鹿児島や和歌山など以前より北の地域にも上陸するようになっている。
伊豆諸島では、1996年に新島で初めて上陸跡が見つかり、2004年には大島でも確認。今では神津島、三宅島、八丈島でも産卵が報告されている。
2025年現在、北太平洋で最も北の繁殖地は大島の砂ノ浜である。
衛星発信器を付けた研究で、産卵後のアオウミガメが小笠原から伊豆諸島・伊豆半島沿岸へ回遊していることも分かってきた。食べ物や回遊経路の調査から、海藻を主に食べる個体が多いことも明らかになっている。

<大島で見られたカメたち>
トウシキの鼻の沖では、釣り糸が体に絡まって命を落とした若いカメが見つかった。釣り糸をそのまま海へ捨てることが、生きものにとって大きな危険となる。
この海域には「カメ寝の溝」と呼ばれる場所があり、昼間に休むアオウミガメの姿が見られることもある。
2013年に元町沖で腫瘍のあるアオウミガメの死体が見つかった。
この病気(フィブロパピロマ)は世界中で確認されており、八丈島や神津島でも確認されてきた。原因は特定のヘルペスウイルスと考えられている。

<占いとウミガメ ― 亀卜(きぼく)>
古代の伊豆諸島では、アオウミガメの甲羅を使った占い「亀卜」が行われていた。
平安時代には大島の占い師が都に呼ばれ、儀式を行ったという記録がある。甲羅で作った板を火であぶり、割れ方で吉凶などを占った。
八丈島では明治時代初めまで亀卜を行う家があり、近代の大嘗祭(天皇即位に関わる神事)に先立つ儀式でもアオウミガメの甲羅が使われた。

<いまの大島のアオウミガメ>
最近では、元町の弘法浜や南西部の二つ根などで、甲羅干しのように岩に上がるアオウミガメが見られることがあった。
ハワイでは「Basking(バスキング)」と呼ばれ有名な行動だが、大島でも同じような姿が観察されている。
ただし、日向ぼっこなのか、弱って漂着したのかを見極めるには、慎重な観察が必要だ。

<まとめ>
アオウミガメは、太古の昔から人と関わりながら生きてきた、海の旅人だ。
伊豆大島はその北限の繁殖地であり、いまも彼らが静かに息づく場所。
この島で見られる一頭一頭が、遠い海と人の歴史をつないでいる。

甲長が約38cmの子ガメの剥製。別名の「アサヒガメ」は、このように幼体・亜成体の背甲鱗板にある朝日が昇るような放射状の模様から呼ばれる。

初確認になった産卵を終えて帰海する親ガメとの記念撮影。背甲の美しい深緑色が印象的だった。甲長1m3cm。2004年6月29日未明。読売新聞大島通信部金森靖明記者撮影・提供。

アオウミガメの産卵巣。卵塊。110個前後を1度に産み落とす。150個を超えることもある。オキナガレガニなどウミガメの付着生物が巣内に残されていることもある。

バケツの中の孵化幼体(孵ったばかりの子ガメ)。特別な許可を得て人工孵化をした際の子ガメたち。9月中旬の産卵だったが、海水温が低くなる前に放すことが出来た。子ガメは通常、夜間に砂の中から脱出すると、かすかに明るく見える海の方角へ砂浜を這いながら、その方向を地磁気で獲得するので、砂浜を這う経験は大切である。次に海へ入ると磁気コンパスに切り替えて獲得した方向を定位し続け外洋へ向かう。バタバタと泳ぎ続ける動き(フレンジー)を1日ほど続け、後は海流に身を任せて陸地から離れ、流れ藻などと共に大海を旅して成長する

親ガメが上陸して平らな砂浜を這った跡(上陸跡・上陸痕跡)。ウミガメ科で体が最も大きくなるアオウミガメは、上陸跡の幅が1m20cmを超えるものもある。種によって上陸跡は異なり、個体によっても微妙な差がある。

漂着体は死んでいる場合がほとんどで、四肢や頭部のない個体も多い。発見したら、種、性別、サイズ、外傷、付着生物、腫瘍の有無、標識(タグ)の有無などを調べ、写真撮影する。甲長・甲幅は特大ノギスで直線での長さをミリ単位で測る(直甲長・直甲幅)。メジャー巻尺で背甲の曲線を測った場合は、「曲甲長・曲甲幅」と明記する。

サイズを測るノギスもメジャーもなく手持ちの雨傘を目安にした。再び流出してしまいそうな漂着体や、帰海しようとする母ガメがいて、何もなければ流木などを使って目安にする。

伊豆諸島では、桟橋や海岸の護岸、磯などから、運が良ければウミガメを観察することが出来る。息継ぎに顔を出したり、大きな甲羅が海面を移動するのを眺められる。

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