ウミガメ総論
世界の海洋には7種のウミガメが分布している。この内の5種(オサガメ、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメ)が日本近海に生息している。
<ウミガメの潜水能力>
ウミガメ類は、潜水中の酸素消費速度を鳥類・哺乳類と比べて極端に低く抑制している。潜水中には心拍数も極めて低下させる生理機能があり、酸素消費速度も低下させ、長時間で大深度の潜水を可能にしていると考えられている。
<ウミガメの性別は地温で決まる>
親鳥が一定の体温で抱卵するニワトリは孵化日数が21日程と決まっている。しかし、ウミガメの卵は温度の変化する砂浜が温めるため45日から75日程と孵化日数が変わり、それにより孵化率も左右される。
24℃~33℃の間の高い温度で温めれば孵化日数は短く、低い温度で温めれば長く掛かる。それ以上でも、それ以下の温度でも孵化には適さない。
また、ウミガメ類は孵化途中の温度によって性別が決まるという特異的な性決定の仕組がある。これは温度依存性決定(TSD: temperature-dependent sex determination)と呼ばれ、多くの爬虫類にあり、調べられた全てのワニ類、一部のトカゲ、多くのカメ類でこの仕組みがある。
ウミガメの卵は巣穴へ産み落とされた時点では性別が決まっておらず、孵化期間全体を3分割した中間の期間、および卵の胚の発生段階の中程で性別が決まる。
卵が経験した温度が高いとメス、低いとオスになる。雌雄が半々になる臨界温度は29℃付近にあり、32℃では全てメス、27℃では全てオスになる。
TSDの仕組みにより、真夏の伊豆大島で孵化期間を経験して生まれる子ガメはメスである可能性が高い。
夏の伊豆大島の砂浜は黒色で太陽光の反射率が低いため高温になりやすい。西日本の産卵地に比べ高緯度であるため、春には砂浜が温まりにくく、秋には低くなりやすく季節変化が激しい特徴もある。このため孵化日数も大きく変動する。
<妨害しない心配り>
夜の波打ち際をライトを点けて歩き回ると、上陸しようとするウミガメの妨害になる。また、砂浜にいるウミガメに運良く出会う機会があったら、すぐに灯りを消し静かにウミガメの動きに耳を澄まし、妨害しないようにする。
ウミガメは産卵を始めるまでに妨害されると、そのまま産まずに海へ戻ってしまう。写真の撮影は産卵を終え巣穴を埋め終わってから、フラッシュを弱くして最小限に留める。この図鑑のウミガメ写真は全て産卵後に撮っている。

アオウミガメの上陸産卵帰海した痕跡。上側が海。スムーズに上陸し(左側跡)、手前で産卵し、帰海した(右側跡)。

産卵地の保護柵。孵化期間が過ぎ、砂中から脱出する子ガメが自然に海へ行けるように簡単な柵とロープだけで囲う。

小型データロガーMDS-T。砂浜の産卵巣と同じ深さの温度を計って記録する。産卵が始まる5月中旬から、孵化脱出の可能性のある10月下旬頃まで、約半年間の温度データを記録する。

砂中温度のグラフ。1999年の地表面から40cmと60cmの深さの温度を比較。データロガーで得られた記録。

砂中温度のグラフ。2000年の地表面から40cmの深さの温度の記録。最も高い時期は36℃ほどになった。例えば1995年、大島の砂中最高温度は約32.5℃、南にある屋久島は約30.0℃と低かった。

砂中温度のグラフ。2006年の地表面から40cmの深さの温度記録。グラフ線が大きく谷になっているのは大雨などの時。

寒冷紗ネット。砂中温度が33℃を超えそうな時は、このネットと散水で地温が上がり過ぎないように温暖化対策をする。下げられる地温は1~2℃でも、孵化・脱出できる子ガメの数はかなりの違いがある