オサガメ(オサガメ科)
オサガメ(長亀)(別名:ろっかく亀、やしま坊主)
世界の大洋に最も広く分布し、現存するカメの中で最大種で、1種で独立した「オサガメ科」を形成している。
<特徴>
他のウミガメとは異なり、甲羅に硬い大きな鱗板がなく、革のような皮膚に覆われているのが特徴で、英名「レザーバックタートル」の由来となっている。
船底を前後に長く通る船の背骨の役目をする部分をキール(竜骨)と呼ぶが、オサガメの背中には7本、腹側には5本のキール状隆起がある。(ジンベイザメの体にも似た隆起があり、どちらもコバンザメを従えて泳ぐ姿が確認されている)
<産卵>
主な産卵地はマレーシア、ニューギニア、コスタリカなどの熱帯地域で、通常日本では上陸産卵しないが、2002年6月28日、午後3時過ぎ、国内で初めて鹿児島県奄美大島瀬戸内町の砂浜で、上陸産卵しているオサガメをサーファーが見つけ、ピンポン玉より少し大きな卵を50個ほど産んで海へ戻ったことが確認されている。
<食性と脅威>
オサガメの主食は、クラゲ、サルパ、翼足類(カメガイ)など、ゆっくり泳ぐ生物。
20世紀後半、私たちがビニール類を大量に生産・消費するようになると、海に流れ出たビニール片や発泡スチロール、プラスチックなどをオサガメが誤って食べ、命を落とす例が急増した。
オサガメの食道の内側には、奥向きにたくさんのトゲ状の突起があり、一度飲み込んだものを吐き出しにくい構造になっているため、こうした異物の誤食は命取りになる。
さらに、オサガメにとって最大の脅威となっているのが、漁業による混獲(漁具や漁網に本来の漁獲対象ではない生物がかかってしまうこと)。信頼できるデータに基づく推定では、2000年の1年間だけで、世界の延縄漁によって混獲されたオサガメは約5万頭にのぼったとされている。
また、ウミガメ類の典型的な減少例とされているのが、マレーシアのトレガヌ州の砂浜でのオサガメの産卵巣数だ。この海岸の1950年代の記録では、年間の産卵巣数が1万巣を超えていたが、1990~92年の3年間の平均産卵巣数は239巣、2.2%となってしまった。
国際自然保護連合(IUCN)も、オサガメを絶滅危惧種の中でも特に危険度の高い分類に指定している。
なお、日本では昭和後期、九州沿岸に漂着するウミガメ類で、オサガメの多さを指摘した報告がある。
<回遊と適応>
オサガメはウミガメ類の中で最も高緯度の冷たい海域へ回遊することが知られている。
爬虫類は外界の温度によって体温が変動する変温動物(外温動物)だが、オサガメは甲長が1mを超える頃になると水温26℃以下の海域へ出られるようになり、成長とともに高緯度海域へ進出していく傾向が見られるという。巨体化することで体温を外部水温よりかなり高く保つことができる。
北海道、カムチャッカ半島、大西洋では北米のニューファンドランド島、ヨーロッパ北海などの沿岸にも出現する。
<最大記録>
最大級のオサガメの記録として残る個体は、甲長が2.5mを超え、体重は916㎏で、英国ウエールズに漂着したオスである。
<体のしくみ>
1970年代にカナダで捕獲されたオサガメを、7.5℃の水槽に2日間入れ、その後に陸上へ引き上げて体温測定すると、水温より18℃高かったという。巨体恒温性については詳しい解明が待たれる。
また、オサガメは、最長潜水時間は70分程と他のウミガメ類に比べてそれほど長いわけではないが、最大潜水深度1000mという。
オサガメは他の種と異なり、血液中のヘモグロビンに酸素を結合させた形で蓄えられ、それは全蓄積量の50%程に当たる酸素量である。
ウミガメ類の内、最も深く潜水するオサガメが体内保有空気量を減らすのは、減圧症回避のためではないかとする説がある。

この漂着体は、1996年6月17日、元町の地曳浜に打ち上げられたオサガメの背甲の一部。残っている部分から推測すると、甲長2m、甲幅1mほどの最大級のサイズだったと思われる。

1969(S44)年に新島の近海で捕獲された個体。剥製で縮んでいる現在の甲長で1.2mほど。波浮港にある東京都島しょ農林水産総合センター大島事業所に展示されている。