ニホンキクガシラコウモリ(キクガシラコウモリ科)

<分布>
ヒマラヤ山脈南麓、中国、朝鮮半島、日本(北海道、本州、四国、九州、佐渡島、隠岐、壱岐、対馬、五島列島、甑諸島、屋久島、口之島、中之島、伊豆諸島では、大島、新島、三宅島)。平地から亜高山帯まで広く分布する。
かつては、ヨーロッパなどに生息するキクガシラコウモリ属と同一種とされたが最新の研究で別種に。
 
<ねぐら>
自然洞窟、トンネル、人家など。大島では、防空壕、避難壕、廃屋、車庫、なども利用している。
 

<特徴>
体毛は淡い褐色。日本の小型コウモリ類の中では比較的大きい。大島で1998年8月に調べたオス個体は、両翼を広げた長さが約33㎝、足先から耳先まで約11センチ、体重約27gであった。
顔の中央の鼻に複雑なヒダ(鼻葉:びよう)がある。鼻葉の前部は馬蹄形で、後部は尖る。鼻葉から超音波を出す。英名Greater Japanese horseshoe batの「ホースシュー:馬の蹄鉄」は、この鼻葉の形状に由来する。尖った大きな耳。下唇の中央に1本の溝があり2分される。翼は広く短い。ホバリング飛翔もできる。国内の洞穴性コウモリ類の中で最も普通に見られる。
 
<食べ物>
スズメガなどの大型のガ、甲虫類、ハエ類、ガガンボなど。
 
<習性>
メスは2~3歳で成熟し、交尾後すぐに精子を受精させずに貯めておき、条件が良くなったら受精する「精子貯蔵型」。2~3歳で初出産し、妊娠率は高い。毎年、6~7月頃、出生地へ戻って出産哺育することが多い。妊娠した集団(10頭~200頭ほど)で特定の洞窟に出産哺育コロニーを形成する。1産1子で新生子には体毛がある。成獣メスはワキの下に乳頭1対がある他に、外部生殖器の上部に凝乳頭(偽乳頭)が1対あり幼獣はこれをくわえてしがみつき哺育される。母獣たちが採餌へ出掛けると洞窟の天井部分の幼獣集団は、互いに体を接して体温を保って待ち、戻った母獣は音声コミュニケーションで我が子を識別する。幼獣は生後40日ほどで離乳する。
 
本種の属する小形コウモリ類は、人には聞こえない超音波を鼻腔から発信し、周囲の様子や獲物の位置を正確に知る反響定位(エコーロケーション)を行う。本種は鼻葉から発した超音波を鼻葉と両耳の3か所で受ける。この超音波は種によって周波数や波形に特徴がある。本種は63kHz~72kHz。1~3mほどの高さを飛びながら採餌する。大島では、防風林やヤブツバキ並木の「椿トンネル」内を飛び、足で枝にぶら下がって超音波で探査し、飛び立って虫を捕え、枝に止まって食べる光景を夏の早朝に観ることが出来る。
 
哺乳類であるコウモリの仲間は、自らの体内で一定の体温を作る恒温動物であるが、コウモリの一部の種はエネルギーを節約するため特別な能力を獲得した異温性動物である。異温性は、主に温帯域の小哺乳類(ヤマネなど)と高山地帯のハチドリの仲間に見られる。トーパー(torpor:鈍麻状態、不活発状態)と呼ぶ、体温変化を任意でコントロールし利用できる能力である。体温を気温とほぼ同じくらいに調整し、呼吸や心拍数を少なくして酸素の消費を下げ、代謝スピードを抑制する。正常時より体温を10℃も低くした状態では、末梢の血管が収縮し最低限必要な器官を動かすだけの血流を保つ。冬眠は、食物の昆虫が少なくなり気温が低下する時期に、トーパーを数週間、数か月と続けることだが、大島のように冬が穏やかな地方ではトーパーの連続ではなく断続的に覚醒し、時には活発な状態にもなる。また、特に厳しい寒さの際にはトーパーを解除し、居場所を別に移したり、集団で群塊を作ったりしてエネルギーコストを下げることもある。トーパーは春から秋の活動期にもしばしば使われる。
寿命は長く、23歳の生存記録がある。
 
ニホンキクガシラコウモリは、遺伝子の研究で日本列島に3つの系統グループがあることが分かってきた。大島の本種は東日本のグループに属す。約43万年前の大氷河期に大陸と日本列島が陸続きになった際、大陸から本種の祖先が渡って来た。その後、間氷期に海面水位が上昇し列島となり約14万年前には東日本と西日本の系統グループに分化した。その後の小氷河期に海水面が低下して対馬海峡が狭くなり、飛び越えられるようになった約8万年前に南西九州のグループが大陸へ進出したと考えられている。

太平洋戦争のトーチカ遺跡。大島に残されている戦争遺跡。波浮港の竜王崎灯台周辺の公園で観られる。夏場にニホンキクガシラコウモリなどがナイトルーストとして利用している。

ニホンキクガシラコウモリは天井にぶら下がり、翼を体に巻き付けるようにして休む。

民家の離れた物置の天井にペンダント飾りのように頭を下にして足でぶら下がって休む。

2頭のニホンキクガシラコウモリが寄り添っている。2009年5月。

飛翔しているコウモリ写真の撮影は大変難しく、とても貴重。

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